脳梗塞(こうそく)のマウスに、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を移植すると、脳に巨大な腫瘍(しゅよう)ができることが、岡山大の河相裕美大学院生と阿部康二教授らの実験で分かった。正常な脳では異変はなかった。iPS細胞は臓器再生への応用が期待されているが、疾患があると逆効果になる可能性があることを示している。近く英専門誌「脳循環代謝学会誌」に発表する。
研究チームは、梗塞で損なわれた脳の細胞を再生するため、iPS細胞に注目。人工的に脳の血流を遮断してマウスに脳梗塞を起こし、1日後にiPS細胞を移植した。
その結果、移植した直後に比べて腫瘍の大きさは2週間後に6倍、1カ月後に10倍になった。また、iPS細胞の作成に欠かせない4種類の遺伝子のうち、がん化を招きやすい遺伝子c−Mycの働きも時間とともに大幅に活発化することも確認できた。
これに対し、正常な脳にiPS細胞を移植しても腫瘍はできなかった。
このため、正常な脳にiPS細胞の分化を抑える未知のたんぱく質が存在するか、梗塞脳にiPS細胞の働きを活発化させて腫瘍を増やす未解明のたんぱく質が存在している可能性が考えられる。
阿部教授は「腫瘍化を制御するたんぱく質が特定できれば、iPS細胞を病気の治療に効率よく使う道が開かれる」と話す。【田中泰義】
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